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不動産物件は建築か?

2008年の春に福岡R不動産が立ち上がりました。その大本は東京R不動産です。一言でいうならこの不動産は、これまでの不動産屋が不動産として眺めていた「物件」という眼差しではなく、建築デザインへの理解から、不動産物件群を「建築」として掘り返そうという姿勢を持っていると思います。思えば、日本は空き家率13%を超える、いわば「物件」としては完全に情報過多の状態、どれも同じようなものが横並びになった膨大な空き家情報の海です。その中から例えば、スケルトン渡し、つまり改装自由のものであったり、眺めが特にいい、とか、眺めはよくないが内装に工夫があるとか、逆にボロ屋だが改装しがいがある、などの、特徴的な「物件」ばかりをセレクトして、私たちに開示してくれます。不動産価値としての既製の評価項目にとらわれずに、その建築の持っているある種のポテンシャルを、担当者自ら脚を運び、目で確認し、撮影し、そしてWEB上にその克明な「主観」を公開することによって、広く人々に伝えられています。彼らが自ら言う「不動産のセレクトショップ」です。不動産業界としてはこういう主観的とも言える選び出し、掘り起こし作業はやはり難しかったのだと思います。建築やデザインの世界からの不動産業界への提案というか、現れるべくして現れた、ものでした。

「漆喰と木の室」は2001年から銘打って細々と始められました。フローリングに木の無垢材を用い、壁天井を漆喰に塗るということ自体は、例えマンションであっても決して新しいというほどのものではなかったと思います。ただ、分譲所有者が自らの住まいとして行うものではなく、誰が住まうかわからない賃貸として、さらにはハイランクの家賃ではなく、極々一般的なレベルのものとして、つまり、「家賃据え置き」を前提としてこれらの仕様としたことは、(日本で最初かどうかはわかりませんが)当時としては先駆的、というかコロンブスの卵ではなかったかと思います。この細々とした仕様は、実に細々と、しかし確実に人々から支持を得て参りました。無垢の木と漆喰。着眼点としてはおおよそそれのみですが、それの魅力がわかる人にとっては、目から鱗、一目見て即決、そういう状況を目の当たりにしてきました。これはいける、賃貸だから仕方がないとか、生活空間としてあきらめている、なんてことはなくて、やはりこういうものが賃貸の世界にも必要なのだと確信しました。

 

福岡R不動産の掲載ページ(高宮avenue702号室)

ところが、必要としている人が「漆喰と木の室」と出逢うには、あまりにも手前側の広報がお粗末でした。また、既存の不動産業界では、正直なところ、この「一般的でない」賃貸とそれを求める住まい手をマッチングさせる媒体が不十分でした。そこに、現れたのが東京〜福岡R不動産です。「漆喰と木の室」は、おそらくR不動産に扱って貰うといいのではと思い、とりあえずwebページを開きました。すると「漆喰と無垢」というタイトルのついた、見知った賃貸マンションの一室が掲載されていて、既に「FULL」の表示、入居者が決まっているページがあったのです。まさにその空き部屋をお願いしようと思っていたのですが、すでに決着がついていました。管理不動産会社より、その室が埋まったことの知らせが私に届いたのは偶然にそれを発見してから数日後でした。R不動産は、不動産業界が共有する空き家情報を基に、自ら進んで動き、取材し、素早く掲載していたのでした。

「漆喰と無垢」の部屋no.1はあっという間に借り手と結びつきましたが、その後掲載された「漆喰と無垢」(=「漆喰と木の室」)もR不動産を介して、no.2,3と振れば当たる魔法のバットのように確実に借り手とヒットしました。絵に描いたような、「水を得た魚」です。R不動産としても、成約率の高い「物件」として、積極的に迎えられ「漆喰と無垢」が番号付きでくり返されるようになりました。「漆喰と木の室」の手法が小さく普遍化していき始めたようです。それ以前は、これらの仕様が賃貸として有効な手段であるかどうかは不明瞭なものでありましたが、R不動産の定番となり、その他不動産業界においても、最近ではカテゴリとして定番化してきたように思います。

そもそも、無垢のフローリングと漆喰など、素材の選定にすぎません。定番になってこそ相応しい「普遍的」なデザインなのだと想います。普通の人々の日常生活を豊かにするために「漆喰と木の室」をやりはじめたという、根本的なところと繋がります。私共が当初、中古マンションの再生と、人々の賃貸生活の向上のためを考え、実験的に行ってきたことが、方法として拡がっていくことは実によろこばしい限りです。

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