74才の夫婦のための終の棲家である。本当は、既に17年前に新築した住まいがその役割を果たす予定ではあったが、それは土台が腐敗し、柱が陥没し、サッシが動かなくなっていた。さらには、大事に手入れをしてきた庭を望むことのできない間取りであった。既存の家屋は和室だけを残し、そこを接客空間とし、普段の生活は新しく増築しようということになった。すなわち居間とダイニングキッチンが取り払われ、そこに新築をドッキングさせるという構想。

 


最初の打合せにて、すぐに施主の考えが変わった。すでにある庭を南から眺める、そのために既存家屋から細長い空間が庭を回り込むんで南に鎮座するというアイデア。廊下の長さが20m近くになる。その先も20mの居住部分。面積としてはきわめて一般的な40坪強であるが、まるで廊下のような住まいである。文字通りの廊下は、前後が許す限り巾を拡げ、居住部分は内部が許す限り巾を狭められた。床面積という概念より、総長とか全長という概念を持った家が現れ始めた。

新しい住まいは同時に旧宅の和室から眺められる庭の背景にもなる。内部空間の天井高はゆとりを必要としつつ、なおかつ建物高さは低いものであることが自ずと命題となった。普通なら切り妻屋根となるところだが、それでは現代住居としてのみずみずしさがない。建物が紋切り型では手前の日本庭園が活き活きとしないのではないかと思った。その断面はよこに伸びたシルクハットのようなカタチとなった。
もう一つ、内部からの庭の景色は、なにがあっても最優先されるべきと心得ていた。水平方向に切れることのない風景、水平に拡がる風景、という目的が、音を立てることなく自動的に図面化されていった。