2022. 11. 16 permalink
昨日は、お引き渡し日。この日は、竣工引き渡し書類と、鍵の受け渡しの事務的な内容に止まる。これから、使用のシュミレーションを行い、修正を加えていく。その他にも残工事がある。
建築には、産みの親と、育ての親が、いる。産みの親は作り手であり、育ての親は使い手、の構図。人間に例えるなら、生まれてこれただけで、おめでとう、ありがとう、の声が飛び交うが、実は、そこから先の方が長く険しい。建築の場合は、産みの親は、地理的に近くに居る場合は、時々に、育ての親の手伝いもする。
今日は、早速、この建物を運用する外部の関連会社の方々の人目に晒される1日。自分たちは、6年前から図面を睨み続け、1年前から現場に通い続け、最後は毎日、という感じだから、語弊を恐れずにいうなら、目が麻痺している。感動に酔いしれるというよりも、うまくいっていないところにばかり目がいく。なので、来客の方々から感動の声を聞くと、それが実に新鮮に聞こえる。
そして、「パース越え」という言葉を聞いた。現代の設計現場は、3Dモデルを立ち上げて検証材料、プレゼン材料にすることが、ひと昔に比べて、格段に常識化している。自分たちも、外観に限らず、家具や照明器具やドアノブなどの小さな部位までも、3Dモデル化して、検証し、そして施主さんにプレゼンするのが、当たり前になっている。一度3Dで打ち合わせを進め始めると、もはや、それを作らずには、打ち合わせが成立しないようになってしまい、事務所中のパソコンが湯気を上げながら、演算に勤しむ風景が常となる。
ブライダルの世界も、この3Dパース技術を駆使して、取引がなされていることを知る。20世紀以降の建築デザインは、写真技術の活用とメディア戦略によって市場化が進んだという事実を考えれば、今はそれがバーチャルな3Dに置き換わっただけということも言える。でも、3Dは写真より、よりバーチャル(仮想)である。必ず現実とのズレがある。取引の手前でバーチャルを用いれば用いるほど、現実とのズレが発生するのは、言うまでもない。その中で、「パースよりいい」と言ってもらえる構図は、気持ちのいい裏切りのはずである。本当にそうであるなら、この上ない。
当然だけれども、設計者は、パースを見ながら、実際の素材の感覚を足し合わせた空間イメージを、パースにではなく、自らの頭に描いている。だからそこで、現実に近いものを見ている。そして、現物が出来た時に、「パースと同じだ」という、ある意味、拍子抜けな感覚に陥る。空間の大きさに対しても同じく、ずっと図面と模型と3Dモデルを動かして見ているので、スケール感覚が、さほどズレない。出来上がっても、だいたいこのくらいと思っていた、という感じになってしまう。
だから、初見の方々の第一声が、本当に新鮮に聞こえる。今日から、生みの親として、育ての親の背後に回り込んだのだと思った。