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2015. 5. 17

第158(日)「住民参加」の聖地へ

母校の授業の関連で、東京都世田谷区太子堂を訪れた。三鷹~杉並の住民だった時代には、このあたりを徘徊したことがなかったが、都市計画の教科書にも、また建築士の学科試験にも出てくるほどに、都市計画、まちづくり、とりわけ「住民参加」の成立地であることの記憶はどこかにあった。なんとなく知っている、ということは知らないよりはいいが、でも実際の場所に脚を運び、40年近くこの地に住み住民参加型のまちづくりを育ててきた人々に出会えたことによる実感は、格別であった

梅津さんは自他共に認めるこの地のまちづくりを担ってきた重要な人である。太子堂に住み、自身はサラリーマンをされながら、この地区のまちづくり協議会の一員として、ほぼ半生を費やされてきた。そのことも事前に聞いていたが、実際に4~5時間の話を伺うことによって、この人の働き、このまちの内情を初めて知る、というか感じることになった。

人生の大先輩でもある梅津氏は84歳。私の母と同じ歳。私の母は寝たきりではないが、残念ながら梅津さんのような若さを持ち合わせていない。1時間近く炎天下の元を学生に物事を解き明かしながら歩き回り、それから3時間、みっちりとスライドレクチャーと議論に浸るエネルギーがいったいどこから出てくるのだろう。また、人名、地名などの固有名詞、町の概要などにかかわる数字や、年号が滞りなく次々と脳内から引き出される様は、とても80代の人間には思えない。どの年代でも同じことが言えるのかもしれないが、生きるバイタリティーがその働きを決める。自らのこれからの歳の取り方を、もう今から反省したくなるような、身の縮む感覚を覚えると共に、高齢化社会の問題を、人間の群でとらえる以外に、一人一人の生き方の指標として捉え直す必要を感じたりもした。

確かに、住民が積極的にまちづくりに参加するのだから、住民として、なにか特別な気概を持ち合わせているのではという、買いかぶりがあった。だが、我がホームタウンと同じく、普通の意識の人々の集合と考えた方がよさそうだ。そこに特別な人間がわずかにいたから、この場所は教科書に載ることなったのだ。

大学の授業の一環として学生を引率する立場を返上し、自ら学生と同列に学ぶことの多き一日であった。そのなかから2つだけ、書き留めておきたい。

「仮に同じ地域に住んでいる人々であっても、みな考え方や利害が異なります。皆がまちまちの考えであることは当然のことと理解して、その食い違いを、決して多数決で裁断するのではなく、時間をかけて合意形成となることを目指します。」つまり、過半を境に物事を採否するのではなく、賛成も反対も、可能な限り参加者全員の合意を目指すというもの。そのためには時間が必要(小さいことであっても1~2年かかる)であるが、おおむね可能であるとのこと。これは、仕事としてはできないことだろうと思った。はからずも梅津氏をはじめ、「まちづくり協議会」の会員は、無報酬の有志で行っている。

もう一つ、

「考え方の違う人たちが、時間をかけてつきあっていくうちに、意見が合意されていくプロセスが、面白くてやっています」

公益となるはずの道路拡幅一つでも近隣住民が我論を展開しもめてしまう、本当はおもしろくない話の方が多いはずの住民参加型まちづくりを、結局は愉しいと言えるその度量。「深い愉しみ」とはこういうものを指すのだろう。そしてそういう愉しみは、自己を満たすだけの普通の愉しみと異なり、他者を幸せにしようとするものであるかもしれない。実際の場所を訪れ、人に出会うことよって、どこかでわかっていた気になっていたことを、改めて感じさせてくれる。

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