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2012. 9. 9

第134(日)技術のデザイン、建築家F

昨日、同業の古森さんの建築を見て回る機会を得た。木造の寺院のこと、プレキャストコンクリートのこと、特別養護老人ホームのこと、案の定、建築家は、建築設計を通して、社会を知り、社会を考えさせられ、社会に乗ったり反ったりしながら生きている。今回の彼の問いは、日本の技術は概ね、精緻に向かう癖があり、結局、コスト増となり、高尚化するから、そこをコントロールして、肩の張らない技術の育て方がないだろうか、というものだった。これには素直に同感した。日本人の精緻さやホスピタリティーは、様々な人が既に述べていて、当然、ものづくりの領域には限らない。例えば、日本の公共乗り物がなぜ高いか、というのは、サービスがゆき届く方向にしか意識が働かない高い志が仇になっているからだと、外国のそれと比較していつも思っていたし、建築にもどれば、左官だって、大工だって、世界と競争していたわけでもないのに、世界に誇る精度になってしまうという技術史はその証であろう。例えば、禅〜侘び茶が作り出した数寄屋は、ほぼ同時に出来上がっていった書院という格式、格調高き国家様式に対する民衆の美として立ち上げられたはずなのに、蓋を開けてみると、今はもう、手の届かないほど、精緻で高価な、格高き様式に育ってしまっている。
最後に、彼のお宅へ。彼の自らの建築観の内なる砦の中へ、迎えて貰ったことになる。そこでも、壁の話、建具の話をしながら、ついにイヒョウを付く面白いものを見せて貰った。彼が我が娘のためにと手作りした、木製おもちゃのキッチン。同様のものをデパートに買いにいった時に、3万円の値札に納得がいかず、自分で作ろう、と決意。一部大工さんの工具を借用しながら、立派な木製キッチンを作りあげた。それにフライパンやら、お皿やら、ママゴトに必要なおもちゃの器を買い足すと、結局、すべてセットされている商品を買った方が安かった、と頭をボリボリかきながら語って貰った。すぐさま、やはり息子のタメに手作り革製ランドセルを作り、出来上がりの重さに頭を掻いた友人の話を思い出した。二人とも、設計を生業としているから、コストを含めた出来上がりに対しての見通しというのは、常に行っているはずである。それが、プライベートとなると、放り出される。業務的な冷静な見通しはなく、あるのは、現状への不満、既製品、商品への退屈感。それがバネとなって無心に作る。我が娘、息子のためにというのは名目で、実は、自身の不満を解消するために、という空気があたりに漂っている。
あまり、家族の時間を濁してはいけないと思い、こちらから退散を願うと、奥さんが、ハナから長居しそうだと思い込んでいたらしく、もうお帰りですかと言わないまでも、それらしき小さなそぶりを見せた。

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