2016. 1. 17

第163(日)ポッポちゃん

今週の中頃、事務所で仕事をしていると、窓先に鳩がネットに引っかかっているのに気づいた。上階の住人がベランダに侵入してくる当に鳩よけネットに引っかかった間抜けな一羽。
最初は気にもとめずに、仕事の画面に意識を戻すが、ポッポの奴も必死にもがいていて忙しそうというか、苦しんでいて、そちらに気を取られる。あがいているうちにとうとう、なぜか首だけにネットの一端がかかって首をつられた状態、いよいよ私たち事務所のベランダ側に、まるで市場に吊られた食鶏のシルエットさながらをさらけ出した。
このまま死んでしまえば、上階の人は、鳩よけネットの功罪がわからぬまま、しかもポッポの屍が自分の仕掛けにかかっていることがわからぬままである。いや、そのまえにポッポが、普通にかわいそうでもある。ポッポと言えば、=糞害としか認識できない輩に、同情せざるおえない光景となってしまった。
こうなるともはや、意識を仕事に戻すことができず、カッター(大)を棒の先端にくくりつけて、首を吊っている細い一本をサムライ気取りで一気に振り切る。あれだけ羽ばたいてもがいていたから、そのまま飛び去るかと思いきや、我が事務所のベランダ側に、転げ落ちてきた。そして、アルミサッシ脇に立つ私の足下へと、のそるのそると、すりよってきた。
ああやはり、何十分かの網との葛藤で、体力が削がれたのだろう。すぐには飛び立てないのだ。まあ休んでいくがいい。でも糞はするなよ、と目線を送りつつ、なんとか意識は仕事に戻り、サッシを閉める。帰り際に、おそるおそるベランダを覗くと、まだポッポの奴は、いる。私の目線に気づいて、「すみません」という感じで、一応身じろぐ。まあ歩いているから、もう少し休んだらさっさと飛び立っていけ、とエールを贈る。よほどなにか美味しいモノでもたべて、精をつけさせようかとも一瞬よぎるが、糞でもされては本末転倒だし、彼の背後に控える大家族が押し寄せてきても困ると思い、その善意は思いとどまる。
翌朝、真っ先にベランダを覗く。・・居なかった。大丈夫でよかった。でも、やはりというか、私が立ちすくすサッシの足下ど真ん中に、5粒の糞をしていた。鳩が礼をするならこれしかなかろう。
とすると、彼流の寸志とも受け取れなくもない。本当に気持ちだけ、いただいておく。

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