いつしか、建築家とか建築士の未来が、日常的に語られるようになっている。私ももちろん含めて建築士当人にとっては、切実なる未来。
建築家と呼ばれる人々の、社会における明確な役割のようなものを実感仕切れない・・云々と、若い頃の私自身が、教えを請う師匠に愚痴を漏らしたことがあった。20代の後半の当時の私にとって、それまでの20世紀的な建築家像のイメージにか、どこか手放しで同意ができていなかったということになる。建築がシェルターとしての物理的な機能を前提にしながらも、芸術としての素養を付帯していることを、了解していたつもりだった。しかし、いざその芸術的側面が多くの人々に関係しているものなのだろうかと一旦疑い始めると、芸術としての建築の不完全さが見え始める。その目的や役割が明解で、分け隔て無く多くの人々に寄与する職業、例えば医者や、弁護士、ミュージシャンや料理人などの方が、勝敗？がはっきりしていて、正直うらやましくも思えたりした。「文化ヤクザ」などと異名を持つ建築家は、その名の程に、怪しい側面を持ちつつ、腕というか、見えざる才能一本で勝負している感があり、カッコ良くは映った。自分の庭を耕している時に他人の芝が青く・・・というそのもの、普遍性に裏付けされた問答無用の清々しさが、建築家像に見出せずにいた。
華の20代から早20年。建築家というスタイルも固定的なものではなく、移り変わっていくということを、中村勉+吉良森子+倉方俊輔お三方の近著「これからの建築士」は、さらけ出している。20代の私のモヤモヤは、少なくとも、これらの新しい建築家像が払拭している雰囲気。空家問題、過疎少子高齢化問題、保存問題、エネルギー問題、それぞれに挑む建築家その他の専門家、単体、集団の別なく社会派的な営み。「多様化」というような漠然とした裾野の広い言葉で済ますべきでないない内実を伴ってきている。
20世紀に日本で一旦成立した、堅くて強固で時にアカデミックな建築家像を、まるで乳幼児に、大人の食べ物を砕いて食べさせるように、細かく砕いて社会に溶け込んでいこうとする風景。視覚芸術としての建築をつくる建築家像の解体、建築家のマッシブな気質が砕けて、社会の各所に片々が浸透していっている、という情景。建築家の理想だけが尊重されるのではなく、依頼者の理想も、あるいは施工者（職人）の理想も、できれば等価に扱われようという時代。三者の理想が対等になっていくのだから、かつてのような求心的な存在とも異なるフレキシブルな振舞いが市場交換原理として建築家に求められている。自分が、建築家を目指した時とは異なる建築家像が今にある。