2008. 8. 10

第45(日)外飯の憂鬱

事務所の真下に焼鳥屋がある。春先の新歓コンパ時期には、若者達の一気コールが夜の製図作業のBGMとなる。悔しいから時には、当然、客となる。
昨日は、上半期ご苦労さんということで、その焼き鳥屋の炭火の香りを肺に吸い込んだまま、勇気を絞って道路を渡り、トイメンの料理屋に事務所で押しかけた。星の数ほどあるのは設計事務所のみならず、外食産業も同じだ。その中で、値段と味にほどよく満足できるという所は、考えてみるとすくない。(おそらくこれも設計事務所とおなじなのだろう。)しかしそのトイメンの料理屋は、それら広大な裾野の数々よりは明らかにぬきんでている。ゴマサバや汲み豆腐などの居酒屋定番メニューを頼んでも数多のものとの違いを感じることができるし、さらには、トウモロコシのゼリーの入った夏野菜のサラダなどといった、明らかにオリジナルな、手間の込んだ料理が楽しげにメニューを飾っている。そのレベルの感性が作っているのだから、どれを頼んでも舌鼓を鳴らすことができる。ビールと日本酒を1~2杯ずつ、腹九分の料理を頼めば、3000~4000円/一人という場末の居酒屋のクラスよりワンランク上で、5000~7000円/一人といったところか。だが満足度は金額の比率以上である。機会は少なくてもどうせお金を払うならこういうところで英気を養うべきと戒められる瞬間である。3~4軒のその列びの中で、この店のみが、朝から仕込みの作業を行っているという事務所スタッフの偵察内容を鑑みるなら、値段はむろん然るべきものである。3000~4000円/でその場の用足しといった使い方のされる店と、もう少し値段は高いが、完成度のある料理を出す店との境界は実に大きいということに気づく。これらの店の列びを図像化するなら、ちょうど富士山のような風景が見えてくる。ちなみに一つだけ苦言を呈するなら、インテリアが料理の質にまったく追いついていない。気の利いた繊細な料理の数々は、悲しいかな中途半端な感性の間(ま)で一人歩きしている。逆の現象はよくみかけるが、こういうパターンは珍しい。

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