2010. 1. 24

第87(日)「心」に取り組む人たち

i会長が主催されているという飲み会?にS氏から誘いを受けて、脚を運んだ。なんでも、土を使って住宅を造るアメリカ人が遊びに来るから、是非どうぞということで。出向けば、福岡でも老舗の焼鳥屋「藤よし」。そこに11名の席が用意されていた。先ずは、アメリカ人。日大の生物資源学科の学生だという名刺をもらった。ノートパソコンでのショートレクチャーが始まる。つまりこれは只の飲み会ではなかった。話はキンバートンヒルという、障害者が集まるアメリカのコミュニティーについて、そしてストローベイルハウスについて。ストローベイルハウスについては、かつて「月刊左官教室」でも取り上げられていたから知っていたし、なによりも佐賀の田崎左官氏が取り組んでいたので、実物も見たことはあった。その歴史背景から日本における実例まで、まとまったスライドを見ることができた。だがそれよりも、キンバートンヒルの研究における巻末の考察が引っかかった。なぜ、このビレッジが長い年月の間存続し、成功したのか?それは、身体の不自由な人々は、人間同士の違いを認め合うことができる人種であるからではないか(なぜなら身障者は健常者との違いに日々突きつまされているから)というもの。アメリカ人の名字は明らかにドイツ人のそれだったが、彼はアメリカで生まれ育った。哲学の勉強を経て後、禅を学ぶために日本にやってきたという。日本語が上手いということはさておき、その関心先、着眼点はなにかこれから日本人が自らに向かって発見しなければならないことのように思った。
気づけば、場は満場、様々な人がいた。そのアメリカ人を連れてきたのは、Y棋士(九段プロ)。本業はいうまでもなくプロ囲碁打ちということだが、囲碁をわかりやすいゲーム(ポン引き囲碁)として開発し、非行少年やひきこもり、自閉症などの子供達を立ち直らせるというもう一つの社会的側面を持っている。それはアメリカでは「安田メソッド」と呼ばれているほどで、それにより培われる集中力が人の能力を引き出させるというもののよう。彼がそのアメリカ人の研究や家作りに関心を寄せ、支持するのも、専門領域の枠を拡げて、社会に役立とうとする姿勢の一つのようでもある。そのY氏の隣にはT氏。彼はかつてパニック症を煩い、農業、つまり土を扱うことによってそれを克服した。今は農業法人を立ち上げ、水田耕作を通して、ウツ病その他に苦しむ人々の回復を支援している。将来は農業法人が未だなしえていない株式上場を行い、日本全土にその療法を伝えていきたいとのこと。そのとなりがそのアメリカ人、そのまた隣にM氏。若干25歳、東大の数学科の助手を勤めていて、数学は心のための学問だということで、私たちの精神生活にこそ活用されるべきとの持論でもって鋭意講演活動を行っている。おそらく茂木健一郎氏が脳科学の世界から心の問題に取り組んでいることと同一姿勢だろうと思うが、近い将来この若者は大いに活躍するのだろうと思わせるエネルギーで溢れていた。早速この会合の後、どこかの介護施設で講演をするということになっていたようで、早々に退散された。そして、i氏。誰もが知っているi会社の会長職。結局日本はどうしてこんなに精神を煩う国になってしまったのかと自ら問いかけられた。それは、あまりにも物質的に裕福になりすぎて、初源的な目標を失ったからではないか?そういえば、発展途上国にはウツ病がありません、などの意見がおもむろに挙がると、これを受けて「これまで日本は豊かさを海外から輸入して来ましたが、これからは貧困を輸入しよう」とi氏。役職を考えるとしゃれにならない冗談であったが、同時に恐るべき核心を突いているような一言でもあった。
結局、会費は会長がすべて持った。ふつうの異業種交流会は、間違いなく割り勘なのであるが、こうなるともはや、異業種交流会とは呼べまい。振り返れば、人が人を呼ぶという感じで、全く偶然に集まった人達は、それぞれに全く異なる分野で励み、活躍しているにもかかわらず、共通していることがあった。彼らは皆、(気持ち悪いぐらいに)心の問題に通じていた。i会長は、素知らぬ顔をしながらそういう人々を集めたことになる。そして、これからいよいよ社会で必要になってくることを、そういう人達の輪として段取りした。ボランティア、というより身銭を費やすことによって。タダ飯を食った我が身は、なにかの役に経つ人間にならねば文字通り、タダ飯喰いの役立たず、となってしまうことになる。

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